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2025年、IPO市場変革の年に

2025年01月06日(月)

皆様、明けましておめでとうございます。

2025年の大発会は軟調な出足となり、株式市場は波乱の1年になるような気がしてなりません。

IPOのほうは、昨年は86社と過去5年間でもっとも数の少ない年となりました。

また、初値騰落率も86社の平均で32%とアベノミクスが始まってから最低水準でした。

IPO株と言えば絶対もうかる株ということでプラチナペーパーだったのですが、全体の2割の銘柄の初値が公開価格を割り込んでおり、下手すると損する可能性もあるとの見方も出てきているのではないでしょうか。

米国のIPO市場は、ここ数年間、件数が右肩下がりとなっているようです。

IPOの目的は二つの側面があって、ひとつは資金調達、もうひとつはイグジットです。

資金調達においては、上場せずとも多額の資金調達ができるようなプライベートエクイティの存在があります。

ソフトバンクグループの運営するファンドもその一つかもしれません。

それと、イグジットにおいては、M&Aによる売却が多くなっているようです。

POするためのコストや時間を考えれば、すべての株式を一括譲渡できるM&Aという選択が有効だと考えられているようです。

翻って、日本のIPOを見ると、小粒化が一層進んでいるように見えます。

東証や証券会社は、大きく育ててからIPOさせることを考えているようですが、実態はベンチャー企業が大きく育って、時価総額で1000億円を超すような規模でIPOすることは難しいように思われます。

東証グロース市場に2024年に新規上場した企業で1000億円超の時価総額(公開価格)は3社でしたが、セカンダリー市場で買われているのは1社だけで、あとの2社は公開価格を割り込んでいます。

公開価格を維持できないような銘柄は投資家から見放されてしまって放置されることになりかねません。

先に書いた、IPOの目的の資金調達もイグジットも難しくなり、発行体にとっても、上場前の株主にとっても、上場していることの意味が見えなくなります。

上場準備中の企業の経営者の方々は、IPOがゴールになっている方も少なからずいるようなので、IPOをゴールにする方はM&Aでイグジットを目指したほうが良いといえます。

自ら起業して10年、20年と経営していると、経営者は自分の会社は居心地の良い我が家のように感じるかもしれませんが、IPOするには、そこをあえて突き放す覚悟が必要になります。

IPOは自分の会社ではなくなることですから、たとえまだまだ株式を過半数持っていようと、不特定の他人株主が入ってきた途端に、大株主ではあるが、自分も株主の中の一人だと考えるべきです。

そして、上場したら、経営者は株主の皆さんに対して企業価値を高める努力を続けないといけません。

企業の規模によっては、多少利益が増えても、株価が動かない場合もありますが、動かないなら動くまで利益を追求する強い気持ちがないと上場会社の経営者にはなれません。

他人のお金を預かり、そのお金を使って事業をさせていただいているという意識、この意識を失くしたら、経営者としては失格ですから、進退を考えるべきでしょう。

年初から、企業経営者に対して厳しい言葉を浴びせかけていますが、東証グロース市場の復活には、上場してくる企業の価値が上がる以外には道がないということをもっと大きな声で取引所も証券会社も言うべきでしょう。

上場のハードルが低すぎるがゆえに、上場後の株価が低迷、いや、業績が低迷するのだと思います。

東証は、もう少し上場のハードルを上げるか、もしくは、上場廃止基準を厳しくすることだと考えます。

年間のIPO社数が半分になってもいいから、そこをやらないと新興市場の低迷は続くのではないでしょうか。

そうすれば、おのずと小粒のIPOは少なくなり、上場前にM&Aなどで規模が大きくなってからIPOするようになるのではないでしょうか。

ベンチャーキャピタルも1社単独上場よりも、上場前に2社、3社と統合させるような動き方もしないといけないように思います。

そろそろ、日本のIPO市場は数を追うのではなく、質を追求するようになっていただきたいものですが、これを成し遂げるには、市場運営者(取引所および証券会社)と企業経営者の両方の意識改革が必要になります。

IPO市場が変わる、2025年が、そんな元年になればと切に願います。

年初から辛口になりましたが、今年の株式市場が、昨年に引き続き活況となりますことを祈願して新年のご挨拶とさせていただきます。

IPOジャパン編集長 西堀敬

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プロフィール

西堀敬(にしぼりたかし)

西堀敬(にしぼりたかし)

IPOジャパン編集長
(株)日本ビジネスイノベーション代表取締役
日本テクニカルアナリスト協会検定会員

1960年滋賀県生まれ。大阪市立大学商学部卒。和光証券(現、みずほ証券)の国際部、ウェザーニューズ財務部長、米国系Eコマース会社の日本法人 CFO&COO、IRコンサルティング会社取締役を経て、2011年より現職。上場会社の社外取締役を複数兼務する。
また、2002年より東京IPO編集長、2015年12月よりIPO No.1サイト『IPO Japan』を監修、編集長に就任。TV出演や経済誌への執筆、セミナーや講演会などIPOの第一人者として市場の啓蒙・発展に尽力している。

著書に『改訂版 IPO投資の基本と儲け方ズバリ!』(すばる舎)、『IPO株の本当の儲け方』(ソフトバンククリエイティブ)。


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