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ヘリコプターマネー議論

2016年07月24日(日)

6月下旬のBREXITから3週間が過ぎたが、為替レートも株価も完全に回復してきた。

この背景には、英国の首相が早々に決まり、新しい内閣も組閣されて、次なるアクションに移行できる体制が出来上がったことで欧州が落ち着いたことにもある。

だが、ドル円相場や日本株が、欧州が落ち着いたからと言って、ここまで急速に戻るのはおかしな話である。

この戻りはいつに国内事情にあったと言ったほうが良いだろう。

ちょうど参議院選挙で自公が大勝した7月10日の翌日から、日本株の様相が大きく変わったと言える。

安倍政権にとってはどんな政策でも通すことができる数を得たわけである。

これで財政出動も自由自在、そして、日銀に永久国債を引き受けさせることも可能ではないかと市場関係者がいいだしたのである。

この週から急に俗にヘリコプターマネーと呼ばれる議論が活発になったわけである。

まず、ヘリコプターマネーとはなにか?であるが、日銀が政府から国債を直接購入することで財政資金をまかなう「ヘリコプターマネー(ヘリマネ)」である。

日銀が国債を直接引き受けることは財政法で禁止されており、現実的には難しいが、市場では政府の経済対策と同時に、日銀が追加緩和に踏み切り、実質的に財政をサポートする「広い意味でのヘリマネ」に踏み切るとの見方が広がったのである。

ところが、日銀の黒田東彦総裁は21日の英BBC放送のラジオ番組で、ヘリマネ導入について「必要性も可能性もない」と否定した。

発言直後、円相場は数分間で約1円も円高・ドル安が進み、一時1ドル=105円台半ばまで急伸。日銀がヘリマネを導入するとの思惑から円を売っていた一部投資家が円を買い戻したようだ。

日本でのヘリマネ導入の議論が高まったのは、デフレからの脱却がなかなか見えないなかで、安倍政権が大型の経済対策のとりまとめに動いているとの報道がなされたことにある。

安倍晋三首相は「アベノミクスのエンジンを最大限ふかす」と参議院選挙の応援演説でも発言しているものの、大幅な財政支出を行うには赤字国債発行に頼らざるをえず、ますます財政状況は悪化してしまう。

そのため日銀が財政資金をまかなうヘリコプターマネーが市場でも取りざたされるようになった。

ヘリコプターマネーの提唱者である米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ前議長が今月11~12日、安倍首相や黒田総裁と相次いで会談したことも市場の臆測に拍車をかけたわけだが、日銀の刷ったお札で財政をまかなえば、通貨発行に歯止めが掛からなくなり、極度のインフレを招く恐れがある。

菅義偉官房長官は記者会見で「(ヘリマネを)検討している事実はない」と強く否定している。

7月最後の週には、米国において米連邦準備理事会(FRB)の連邦公開市場委員会(FOMC)が7月26─27日に開催される。そしてその翌日の7月28日(木)・29日(金)には日銀金融政策決定会合が開催される。

米国においては、金融政策は何も変更されないとの見通しが出ている。しかしながら、日本においては、政府の財政出動と併せて日銀がなんらかの金融緩和策を打ち出すのではないかとの見方が支配的である。

今週、黒田日銀総裁と菅官房長官がヘリコプターマネーを否定したのは、日銀は動かない、ということを暗に市場に伝えたかったのではないかと考えてしまう。

22日の日本株は調整した。ドル円為替レートも一服して円高に向かった。 

BRXIT後の戻り相場をけん引した材料はすでに出尽くしたと考えておいたほうが良いかもしれない。

もし、財政出動10兆円以上で、日銀のヘリマネがその財源であるということが決まれば、ドル円は110円、日経平均株価は1万7000円乗せになるかもしれない。

だが、ここまで否定しておいて、はしごを外すとなると、それはそれで大事になり、市場の信任を失う恐れもなる。

いずれにしても、今週は、大きな相場の流れの分岐点になりそうな気がする。



 

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プロフィール

西堀敬(にしぼりたかし)

西堀敬(にしぼりたかし)

IPOジャパン編集長
(株)日本ビジネスイノベーション代表取締役
日本テクニカルアナリスト協会検定会員

1960年滋賀県生まれ。大阪市立大学商学部卒。和光証券(現、みずほ証券)の国際部、ウェザーニューズ財務部長、米国系Eコマース会社の日本法人 CFO&COO、IRコンサルティング会社取締役を経て、2011年より現職。上場会社の社外取締役を複数兼務する。
また、2002年より東京IPO編集長、2015年12月よりIPO No.1サイト『IPO Japan』を監修、編集長に就任。TV出演や経済誌への執筆、セミナーや講演会などIPOの第一人者として市場の啓蒙・発展に尽力している。

著書に『改訂版 IPO投資の基本と儲け方ズバリ!』(すばる舎)、『IPO株の本当の儲け方』(ソフトバンククリエイティブ)。


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