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IPO投資(その2)

2020年08月01日(土)

前回に引き続きIPO株投資についてそのポイントについて解説していきたい。

株価は言うまでもなく、その企業の利益の増減に合わせて動く。

つまり、企業の業績予想の修正や決算発表のタイミングで利益の水準に変化が起こり、株価が動きだすということになる。

具体的な事例を見る前に、IPO銘柄の特徴について述べておく。

1.業績予想は保守的で修正が出やすい
  上場する前の上場審査で月次ベースで予算と実績を評価されるため、達成が可能な予算を出すことは鉄則となっている。
  もし、予算を必達できない場合は、上場承認が見送りなる可能性もあるため、上場のタイミングで開示される業績予想はほぼ達成される。
また、企業によっては、その予算を上振れする決算を出す企業が多いのも事実である。

2.既存株主(ベンチャーキャピタル)は上場がイグジット
  前回も述べたように上場直後は需給相場となり、業績無視の株価動向となることが多い。
  上場する前から株主になっているベンチャーキャピタルは上場後のマーケットリスクを取らないことが原則なので、上場したら早々に売却することになっている。
  よって、初値が付いてから数日株価が高騰するような場面で、ロックアップが解除されれば、必ずと言っていいほど、売り抜けている。
つまり、ベンチャーキャピタルは株価にとってはマイナスの存在だが、高騰した株価を冷やす役割を持っており、個人投資家がセカンダリー投資をするに際して、大きく調整する局面を作ってくれる存在であるともいえる。

3.機関投資家が株主に入っていない
  上場して1年、2年すると、株主のトップ10に機関投資家が入っているのを四季報などで目にすることがある。
  機関投資家にもいろんな種類の投資家があって、IPO銘柄や新興市場上場銘柄を投資対象にしている投資信託がある。
  そんな機関投資家の投資動向であるが、1銘柄に対して数千万円から数億円の規模で投資すると考えておくべきだ。
  ひとつの投資信託の運用規模が100億円だとすれば、1銘柄に100万円とかはあり得ない、最低でも1%程度で1億円は投資するはずだ。でないと、投資対象銘柄が多くなりすぎて管理不可能になるからである。 
  この後、見ていくが、IPO銘柄は時価総額が大きくないので、数億円投資すると、発行済株式の5%超となり、大量保有報告書を財務局に提出しなければならなくなる。 
  この報告書が出た後に株価の動きを見ると、投資信託の買いで株価が上昇していたり、その投資信託の買いにフォローする投資家の出現で株価が上昇している。
  個人投資家の皆さんは、機関投資家の入りそうな銘柄を先読みするか、この大量保有報告書の提出にフォローするかのどちらかで投資のチャンスがあるといえる。

4.四半期決算の進捗率で買いが入りやすい
  決算発表は1年に1度の決算だけを見るのではなく、3カ月毎に出て来る四半期決算の業績予想数値への進捗率を見ることが大切である。 
私は「好決算発表」という言葉を使っているが、例えば、通期の業績予想で、経常利益が2億円の企業が、第2四半期で1.3億円の経常利益が出ていたとすると、通期では2億円以上の経常利益が出るのではないかとの推測から株価が買われることがある。
もちろん、ビジネスモデルを見ないと言えないが、季節性のないビジネスだとすれば、きっと、どこかで業績予想を上方修正してくるはずである。
東証の開示規則で、利益が予想から30%以上上振れ、下振れする企業は業績予想を修正することが義務となっていることから、ぎりぎりまで修正発表しない会社もあるが、最近のIPO企業は30%未満の業績の修正でも、積極的に開示することが多いので、修正が出ると一気に株価が動くことがあることも念頭に置いておくべきだろう。

5.市場変更を狙わない企業の賞味期限は1年
IPO銘柄に投資する際に、気を付けないといけないのは、これまでに述べたロジックが上場後永遠に通用するわけではないことだ。
正直なところ、上場後、何年間も先に述べたロジックが通用するのは東証1部を狙う企業だけだと考えるべきである。
3.の機関投資家は利益の変化率に目を付けて投資をしているだけで、正直なところ、PERなどを見ると、かなり高い水準まで買われていることがある。 どこかで利益確定売りを出して、もう2度とその銘柄に手を出さないことが往々にしてあることだ。
なぜなら、同じように短期的に利益成長するIPO銘柄は次から次へと出て来るからである。
デイトレードほど飛び乗り飛び降りではないが、保有期間は比較的短くて1年未満ということもありえる。場合によっては。ほんの数か月の保有で売却の大量保有報告書が出ていることもあることを念頭においておくべきだろう。

6.東証1部を狙う企業だけが成長する
いま、東証では、市場の在り方を議論しているが、マザーズから東証1部への市場変更はさほどハードルは高くない。
2年間の経常利益の合計が5億円超で時価総額が40億円超であれば市場変更ができることになっている。
この制度が近い将来変更になって、時価総額で250億円以上ないと東証1部への鞍替えはできないことになる。
おそらく利益水準も2年で5億円で、時価総額が250億円は難しくなるので、マザーズから東証1部への変更のハードルはかなり高くなると推測する。
ならば、余計に東証1部に早期に行ける銘柄は、成長株として、機関投資家の視線は熱くなりそうだ。
新興市場に投資している機関投資家と東証1部に投資している機関投資家は異なる点は、東証1部に投資している機関投資家の資産運用額は新興市場に投資している機関投資家の運用額の何倍、何十倍もあることから、東証1部に鞍替えすることが決まると、大きな資金が一気に買ってくることから株価の変化も大きくなる傾向にある。

IPO銘柄へのセカンダリー投資について考え方を解説してきたが、次回は具体的な銘柄でもって解説していきたい。


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プロフィール

西堀敬(にしぼりたかし)

西堀敬(にしぼりたかし)

IPOジャパン編集長
(株)日本ビジネスイノベーション代表取締役
日本テクニカルアナリスト協会検定会員

1960年滋賀県生まれ。大阪市立大学商学部卒。和光証券(現、みずほ証券)の国際部、ウェザーニューズ財務部長、米国系Eコマース会社の日本法人 CFO&COO、IRコンサルティング会社取締役を経て、2011年より現職。上場会社の社外取締役を複数兼務する。
また、2002年より東京IPO編集長、2015年12月よりIPO No.1サイト『IPO Japan』を監修、編集長に就任。TV出演や経済誌への執筆、セミナーや講演会などIPOの第一人者として市場の啓蒙・発展に尽力している。

著書に『改訂版 IPO投資の基本と儲け方ズバリ!』(すばる舎)、『IPO株の本当の儲け方』(ソフトバンククリエイティブ)。


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